フリッツ・ルフト・コレクションの所蔵作品による キアロスクーロ ールネサンスとバロックの多色木版画 国立西洋美術館

10月8日〜12月11日

「最低入場者数を記録するのでは」と心配する方もいらした。でもすごく珍しくかつ興味深い展覧会だから、きっと口コミで人が来るに違いない。
キアロスクーロ木版画は16世紀初めドイツで誕生した技法で、盛期ルネサンスのイタリア、またマニエリスム期のイタリア、ネーデルランドで発展する。会場には、その後16世紀末から17世紀前半のイタリアの作品、18世紀の作品を加えた構成になっている。
キアロスクーロ木版画とは多色木版画のことで、日本の浮世絵と基本的に同じ技法。しかし、その目指す所は全然違っているのである。西洋では「明暗表現」。これに尽きる。日本のように、平面上における色彩、模様の展開、ということには全然注意が払われないまま18世紀を迎え、衰退していくのである。キアロスクーロ版画は、素描におけるキアロスクーロから発展したのだから当然かもしれないが。そして19世紀には日本の浮世絵版画が到来。例のジャポニスムである。

黒+2,3色の同系色で刷り分けられた版画だが、必ずしも黒が輪郭線の役割を担っている訳ではない。例えば右側から光があたっているような人物描写であれば、右側の輪郭は薄い色が担う。ハイライト部分が輪郭に位置すれば、輪郭はない。ということで、なんとなく締まりがないように見える部分もあるが、全体的には明暗表現による劇的効果が現れているのである。なんというか、劇画を連想する作品が、特に盛期ルネサンスのものに多く見られた。
・ヘンドリク・ホルツィウスの《ヘリオス》なんて、アキラみたいであった。
・パルミジャニーノの原画に基づくウーゴ・ダ・カルビの作品が良かった。パルミジャニーノの素描が手に入らない人にとってはコレクションの格好の対象になったに違いない。私も欲しい。
・マンテーニャの原画に基づくアンドレア・アンドレアーニの《カエサルの凱旋》は、ものすごく質が高い。特に、注文主のために特別に紫の絹に刷ったバージョンは、金でハイライトを載せていたりして必見。注文主はゴンサーガ家のマントヴァ公フランチェスコ1世。ヴァザーリが「マンテーニャの業績中最高」と記した《カエサルの凱旋》を版画で複製するという仕事は大変名誉ある事だったに違いない。