なにも見ていない 名画をめぐる6つの冒険 ダニエル・アラス著 宮下志朗訳 白水社 2002年

Daniel Arasse On n'y voit rien Descriptions, Denoel, 2002

なにも見ていない―名画をめぐる六つの冒険

先日ドレスデン展を見た帰り、家の鍵を忘れたため待っている間に本屋に寄って買った本。

軽い読み物風でありながら、一貫して提示されているのは、絵画の外部にある要素(テクスト、図像学的伝統、など)によって絵画の読みが思考停止になってしまうことへの批判と、それに対抗して著者が提示する、絵画そのものから読みとれることを軸にした、しかし美術史研究の知識を背景とした、図像解釈の可能性。ほんとかいな、というような解釈が展開するが、自分がそれを一刀両断に出来る知識を持っていないこと、また美術史研究における「実証」の限界について所々で周到に触れられていることから、それらを「ばかばかしい」とすることが私にはできなかった。
そうですよねえ、と思ったのは、美術史研究が、美術理論をして、理論的なアプローチなどアナクロニズムに過ぎないとして門前払いすることへの批判。つまり「その考え自体は興味深いんですけどね」で止まってしまっては解釈可能性を閉ざすということ。例えばフーコーラス・メニーナス論を踏まえて美術史家が新たに用意した回答、といった絵画の消費=生産、交流を挙げながら、アナクロニズムに耐える絵画の「理論的な」側面を魅力的に語る。
それにしても、やはり絵画は「解釈」しないとだめなんだろうか。ただ見るだけではなにも見ていない?


作者はイタリア・ルネサンス専門。
こういう小説風のではない著作もある。
L'Ambition de Vermeer (Adam Biro, 1993)*英訳
Lenard de Vinci (Hazan, 1997)*英訳
Le Deail (Flammarion, 1998)*仏語のみ
L'Annonciation italienne (Hazan, 1999)*英訳
Anselm Kiefer (Editions du Regard, 2001)*英訳
ほか多数。